今回はお稽古が終わった後にする復習のコツです。
今回ご紹介する復習のコツを理解すればお稽古の内容がその次以降のお稽古で活用しやすくなり、花を生けるうえで自分の得意な部分と苦手な部分の分析が簡単に出来るようになります。
分析結果が分かれば長所を伸ばすことも短所を補うことも出来るようになりますので、今後どのような内容でお稽古をしていけば良いかという方向性も見えるようになるわけです。
復習なんて面倒だと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、そんな方のために超お手軽な時短編と花を仕事にしたい方に向けたしっかり編の2編を詳しく解説していきます。
復習のコツ(時短編)
時短編に必要なもの
- 小さなメモ帳(字を大きく書きたい方はA4のノート)
- ボールペン(シャーペンや鉛筆でも良いですが、字が消えたり擦れることがあるため消えないタイプのボールペンがおすすめ。)
復習のコツはメモの取り方にあります。
メモを取ることでお稽古が文章で積み重なってデータベースになっていきます。
書くことは5項目です。
- 日付
- 作品テーマ
- 花材
- 今回のお稽古で良かった部分。
- 今回のお稽古での改善点。
日付~花材まではお稽古を少し振り返ればすぐに書けますのでポイントは良かった部分と改善点です。
(時短編の書き方例)
それではひとつずつ説明していきます。
3つの記録
◇日付
日付は読み返すときの記録用。
◇作品テーマ
・格花(立花・生花など様式のあるもの)であればどの様式を生けたのかを書いてください。
生花の書き方(例)
- 生花 菊一種生け。
- 生花 七種伝 水仙。
- 生花 別伝 中段流し。
上記のように様式名+その詳細を書いてください。
・自由花であればお稽古のテーマや作品自体のタイトルを書いてください。
自由花のお稽古のテーマ書き方(例)
お稽古のテーマ
- 色の配置を意識した自由花
- 面の連続を生かした自由花
- 葉物の使い方を工夫した自由花
自由花の作品自体のタイトル書き方(例)
作品タイトル
- 夏の涼
- ピンクの花を可愛く魅せたい
- Happy Birthday
作品タイトルは好きに楽しく書いてください。
もしお稽古のテーマと作品自体のタイトルが両方ある場合は二つとも書いてください。
◇花材
その日使った花材を主材から書き始めて主張度の強い順に書いてください。
花材の書き方の例(作品内容:自由花でユリを主材にヤマシダをあしらいミヤコワスレを少々入れた場合)
花材
・ユリ ・ヤマシダ ・ミヤコワスレ
(主張度強い →→ 主張度弱い。)
※格花の作品テーマで花材をすでに記載している場合はこの項目は省略してしまって大丈夫ですが本数が決まっているような様式で本数によって異なるスタイルがある場合は花材本数を記入しておくといいでしょう。
2つのポイント
◇今回のお稽古で良かった部分。
良かった部分はいくつ書いても良いですが、1~3項目程度が気持ち的にも負担にならなくて良いです。
もちろん書きたいことが有ったら良かった点はいくつでも書いてください。
書き方参考例(自由花)
- 全体のバランス構成が上手くいった。
- 前回のお稽古では改善点となっていた窮屈さが少し無くなってフワッと伸びやかに花が入った。
- 初めて異質素材を使った作品ができた。
- 空間の取り方が良くなってきていると先生に言っていただいた。
- 剣山の配置や水の量にまでこだわれるようになってきた。
書き方としては自由ですが、パターンとしては「作品自体のこと・前回の改善点が生かせたこと・何かできるようになったこと・先生に良いと言っていただいたこと」などを意識して書くとかきやすくなると思います。
◇今回のお稽古での改善点。
改善点も1~3項目程度がおすすめです。
書き方参考例(自由花)
- 色合わせをもう少し勉強する。
- 花同士の感覚が空きすぎて間延びした作品となってしまったので、次に同じようなスタイルを生けるときは少し間を詰めてみる。
- 手直ししていただく際、水にゴミが浮いたままになっていたので、次回は綺麗にするように心がける。
ここでは「勉強したら改善されること、次はどうしたらよくなるか、先生にご指導いただいた部分」を書くようにするとかきやすくなると思います。
改善点を書く上でとても大事な意識
(※今回の復習のコツの中で最も気を付けなくてはいけない部分です。)
改善点を書く上で否定的な言葉は出来るだけ使わないようにしてください。
改善点と言う言葉も悪かったところやダメなところという書き方は絶対にしないようにしてください。
なぜ否定的な言葉を使わないようにしたいかと言うと悪いところやダメなところを毎回探して書き出すようになるため花を生けることに対する自信が無くなるからです。
これはとても危険なことで自信というのは付けようと思ってすぐに付くものでも無いですし、お稽古を始めたての頃はそもそも自信なんてほとんどの方が無いと思います。
そこで毎回のお稽古でダメなところや悪かったところを探して花を生け続けると花を生けること自体が嫌になります。
せっかく上達しようと思って始めた復習が自信を奪い続けることになりかねないので、出来るだけポジティブな言葉を使ってください。
改善点と書くのは次に生かすためであって決して今あなたがお稽古で生けた花を否定する言葉ではありません。
上手くいかなかった・出来なかったところ・良くなかったところという言葉は使ってしまいがちなので、具体的な状態を書いて否定文を避けてください。
具体的に書く例
- 窮屈に入ってしまった
- 少し短かった/少し長かった
- 色合わせが少しぼやけた印象になった など…
具体的な状態を書いたら次はどうやったら上手くできるようになるかを書くことで否定文を避けることができるうえにより具体的な復習が可能になります。
先程の具体例に次回はどうやったら上手くできるかを続けて書いてみます。
- 窮屈に入ってしまったので、次回は茎を気持ち長めにしておく。
- 少し短かった/少し長かったので、茎を切る前に一度作品の全体を眺めてから調整するようにする。
- 色合わせが少しぼやけた印象になったので、次回は少しハッキリとした色の花材も用意しておく など…
このように具体的改善点+答えを用意しておくことで無意識に自信を喪失することなく、より質の高い学びを得ることができます。
長所と短所の簡単分析
復習を続けてお稽古を重ねていくと、良かった部分・改善点ともに同じようなことを書く頻度が増えてくると思います。
「また同じようなこと書いてるな~」と思った部分があなたの長所であり短所でもあります。
あなたの長所
長所(良かった部分)の場合は何度か書いているうちに「何度も書いているし同じこと書いても仕方ないな~」と思う時が来るはずですので、そういう気持ちになったらその長所をあなたはマスターしている可能性が高いので自分の長所であるという自覚は持っておきながら良かった部分に書くことからは外して他の注目すべき良かった部分を書くようにしてください。
長所が自覚できたらその長所が伸ばせそうな生け方のスタイルに挑戦することであなたの得意分野を増やすことが出来るようになります。
あなたの改善点
改善点の方に何度も同じことを書いている場合はその改善点だけを意識して何度かお稽古をしてみることをおすすめします。
もし先生に相談できる場合であればその改善点だけをテーマにしたお稽古を1~3回ほど続けて行うのも効果的です。
(私個人が改善した話になりますが、生花という様式で枝を花留めにする(又木配り)がどうしても苦手で生け終わる前に何度も花留めにしている枝が外れるので先生と研究しましたが原因不明ということがあり、出来るようになるまで2か月ほどずーっと又木配りの生花をお稽古していました。今ではここまでしっかり又木配りの生花が出来る人は中々いないと言っていただけるまでに改善し苦手どころか私の強みにもなっているのでお稽古回数を集中しての改善はとても効果があります。)
復習ノート読み返す?
時短編では基本的に読み返す必要はありません。
上達するためには読み返さなくても良いですが、復習ノートを書き始めて半年後ぐらいに半年前のことを読み返すと「こんなことで悩んでたけどずいぶん出来るようになったな~」と成長を実感できると思います。
読み返さないのに何で書くの?
その理由は以下の3つです。
- 書くことで記憶に定着しやすくなる。
- 書くことで良い点と改善点に何度も同じことを書いているということに気付ける。
- 読み返せば成長が目に見えて実感できる。
次に解説するしっかり編では読み返すことも必要になります。
復習のコツ(しっかり編)
時短編の内容と分析方法を踏まえつつしっかり編も解説させていただきます。
※しっかり編を毎回実践するのは大変ですので、花を仕事にしたいという方以外は目次から <書くタイミングは出来るだけ早く> まで読み飛ばしてしまって大丈夫です。
しっかり編に必要なもの
- A4ノート(おすすめは罫線の無い白紙のもので紙が無くなってからも追加できるバインダー式の物)
- 消えないタイプのボールペン
- シャーペン
- 色鉛筆(絵を描く時に必要であれば任意、無くても平気です。)
時短編から追加になっているものは3つ
- 絵図
- 技術項目
- 様式項目
(しっかり編の書き方例,全体図)
それではひとつずつ説明していきます。
生けた作品の絵を描く
(※絵の上手い下手ではなく、書くことで眼で見たイメージを記憶に少しでも鮮明に定着させることが目的です。)
緻密な絵でも簡単な図形でも全体の大枠が分かる絵であればどちらでも構いません。
色はあっても無くても大丈夫です。
色が無い場合はシャーペンで全体を描いてから強調したい部分や手前に近いものをボールペンで濃い目に書くとそれなりに分かりやすい絵になります。
自由花であれば作品の中で強調したい部分を丁寧に描いてください。
格花(様式のある花、立花や生花など)であればどういう形で出来ているかやどこからどの枝が出ているかなどの作品全体の姿を意識して描いてみてください。
様式のある花の場合は作品とは別に葉の組み方などの詳細を絵にしておくと振り返るうえで役に立ちます。
時短編にプラス
時短編では良かった部分と改善点は3項目ぐらいが気軽で良いと説明しましたが、しっかり編では思いつく限り沢山書いてください。
データが多ければ多いほど次に生きることが多くなります。
技術項目と様式項目
書くことに技術項目と様式項目の2つを追加してください。
◇技術項目
この項目には技術的に今後役に立ちそうなことを書いてください。
技術項目の書き方例(自由花)
- 葉物は指を滑らせるようにするとタメやすい
- 花バサミは斜めに刃を入れるようにすると切りやすい作りになっているので出来るだけ斜めに切ることを心がける
- Aの異質素材とBの異質素材を組み合わせて使うと非常に軽やかな見た目になるので他の花の組み合わせでも使えるかもしれない。
- 全体構成としてどちらかに枝が流れたら逆側に少し重めな物を持ってくることで枝の流れをより強調することができる。
- 盛花を生けるとき下段に入っているものが自分が思っているより少し前に張り出す方が立体感が見えやすいので今度やってみる。
◇様式項目
様式項目では様式としてのルールやしてはいけないこと、応用として使う場合はどこに気を付ければ良いかと言う部分を書いてください。
様式項目の書き方例(生花)
- Aの花材を使う場合は葉数は4枚で生けなくてはならない。
- Aの花材は真の前に実を配置する。
- Aの花材はBの花材よりも後ろに配置してはいけない。
※門弟以外には秘伝の事もあるので花材名はAとBにさせていただきました。
自由花を生けた場合は基本的にはルールがないので技術項目のみ。
格花(様式のある花、立花や生花など)を生けた場合は技術と様式の2項目を書いて置く。
技術と様式を読み返す
時短編では復習ノートは読み返す必要は無いとお話ししましたが、しっかり編で書いた技術と様式の項目は一人で花を生けるときや次回以降のお稽古の予習をするときに役立つ自分だけの花伝書になります。
書くタイミングは出来るだけ早く。
出来るだけ早く書いてしまった方が良い理由は2つ
- 記憶が新鮮なうちが良いから。
- 後回しにするとモチベーションが下がり書くのが面倒になる。
おすすめの書くタイミングは家に帰ってすぐ、もしくは先生の許可が出るようであれば教室で書いてしまうのが一番書きやすくておすすめです(くれぐれも先生と教室全体にご配慮ください)。
教室から帰る途中にどこかテーブルと椅子がある場所に寄って書いてから帰るというのも習慣になると比較的楽に書けるようになります。
実践する前にまとめ
時短編では良かった部分と改善点をサクッと書いて長所と短所を分析。
しっかり編では絵を書くことで頭の中のイメージをより強固なものにし技術と様式を書き込むことで自分だけの花伝書を作る。
というお話でした。
書く際に一番最初に気になると思われる字と絵の上手い下手は一切気にしないでください。
目的はお稽古の内容を復習することですし、そのノートは自分しか見ません。
自分が読み返せて内容が分かれば充分です。
実際に私も最初は丁寧でしたが後半は殴り書きのようになっていきました。
字は殴り書きになっても書き込む内容のレベルが上がっていれば復習ノートの質は上がっていることになりますので、復習することの目的を間違えていなければ字の上手い下手は気にする必要が無いことが分かると思います。
今回の内容は以上となります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
以前解説させていただいた予習編と合わせることで上達のスピードはより加速していきますのでこちらもご覧になっていただけましたら幸いです。
予習編のテキストはこちら<< 生け花上達のコツ【事前準備編】 >>