切り花を楽しむための基本である水揚げですが、普段花に親しみのない方にとっては専門知識と言っても過言ではないほど知らないことも多いかと思いますので、一からしっかり解説させていただきます。
本記事中の水揚げ方法を全てマスターすればほぼ全ての水揚げ作業を習得したと言っても過言ではありません。
この記事の見方
この記事は水揚げ方法のテキストとしても成立するように制作しました。
なので、ご家庭で花束などをもらって取り急ぎ水揚げの方法を調べているという方は目次から
・基礎知識 → 最低限必要な道具 → 切り戻し → 水切り → 水揚げ作業が終わったらどのぐらい水に浸けて置く? の順番でご覧になっていただければ大体のやり方が分かります。
仕事の知識として必要な方や切り花をより楽しみたい方は上から順にご覧になっていただければと思います。
基礎知識
まずは水揚げ方法を解説する前に知っておいていただきたいことがあります。
- 水揚げの方法には種類がある。
- 種類がある理由は花材ごとに適した水揚げの方法があるため。
- 種類は主に6つ
それではひとつずつ解説していきます。
最低限必要な道具
ハサミ
切り花用の花バサミがベストですが、細く柔らかい茎の物であれば文房具のハサミでも頑張れば切れます。
水と容器
水揚げをしたい花の丈の三分の一から半分が水に浸かる容器が理想的。
切り戻し
作業の流れ
茎をただ切って水に浸けるだけ
一番手軽な水揚げ方法が切り戻しです。
手軽な分、花に水を揚げる力が一番弱い水揚げ方法です。
切り戻しの基本
茎の最下部を切れ味鋭く斜めに切る
切れ味鋭く斜めに切ることはこれから説明する切る作業がある水揚げでは共通の基本です。
これは切り口が鮮やかであればあるほど水が揚がる力が高まるためです。
切ったらすぐに水につける
綺麗に切った新鮮な切り口を出来るだけ空気に触れないようにすぐに水に浸けることが重要です。
水切り
作業の流れ
水の中で茎の最下部を斜めに切る
切り花の水揚げの中で最もポピュラーなものがこの水切りです。
水を揚げる力は中程度で花材ごとの適した水揚げ方法が分からない場合はまず試してみてください。
水切りの基本
切り戻しの基本を水中で行う
切り戻しでは切ったらすぐに水に浸けることを説明しましたが、最初から水の中で切ることで切り口が空気に触れない状態を作り出します。
水折り
作業の流れ
水の中で茎の最下部を折る
水切りの茎を切る工程が茎を折る工程に変わっただけです。
水折りも水を揚げる力は中程度ですが、水折りが適している花材に水折りを行うと効果は抜群です。
適している花材は
菊/トルコキキョウ/リンドウ/アスター…など
水折りの基本
パキッと勢いよく折りましょう。
茎が粘るようなものは爪を使って割くように折りますが、爪が汚れてしまうので気になる方はハサミにはあまりよくないですが、ハサミで挟んで捻るようにすると折ることができます。
湯揚げ
作業の流れ
茎を切ってお湯に浸けてから水に浸ける。
水を揚げる力は非常に強力ですが、少し作業工程が増えます。
①花や葉に蒸気が当たると傷んでしまうので保護するために紙を巻きましょう、この時花と葉はしっかりと紙で隠してください。(保護紙の巻き方は<切り花を保護する紙の巻き方>で解説しています)
②茎の最下部を出来るだけ斜めに切る(切り戻しと同じ)
③沸騰したお湯を準備し茎の最下部2~3cmを20秒~30秒間お湯に浸ける
④お湯から上げたらすぐに用意した水に浸ける。
湯揚げの基本
お湯から上げたら素早くに水に浸ける
切り戻しの解説の際に切ってからすぐに水に浸けるのは切り口を空気に触れさせないようにするためとお話ししましたが、湯揚げの場合はお湯から上げた直後がこの状態に該当します。
逆に②の工程でお湯に浸ける前に茎を切りますが、この時は切ってから15分程度時間が経過してからお湯に浸けても問題ないです。
お湯に浸ける時間の目安ですが、茎が細いものや中程度のものは20秒、茎が太いものは30秒です。
花屋さんでは10本~20本程度の花をまとめて保護紙に巻いて湯揚げをすることもあります。
保護紙は新聞やチラシなど蒸気を防げる紙であれば何でも大丈夫です。
解説図ではお湯に対して垂直に浸かっていますが、茎の最下部2~3センチが浸かっていれば保護紙の部分を蒸気から逃がして斜めに傾けて浸けても大丈夫です。
焼き揚げ(燃焼法)
作業の流れ
茎を火で焼いてから水に浸ける
焼き揚げは水揚げの中で最も強力な水を揚げる力がありますが、作業工程が多く時間がかかり茎が炭になるまで焼くので焦げくさい香りがするなどご家庭で行うのはおすすめしません。
花屋さんやホテル装飾などの分野では使うことも多いのでそういう職業を目指している方は覚えておくと役に立ちます。
①花や葉に熱気が当たると傷んでしまうので保護するために紙を巻きましょう、この時花と葉はしっかりと紙で隠してください(保護紙の巻き方は<切り花を保護する紙の巻き方>で解説しています)
②茎の最下部を出来るだけ斜めに切る(ここまでは湯揚げと同じ)
③茎の切り口と切った部分全体が真っ黒な炭になるまで焼く。
④炭化したら火から上げすぐに水に浸ける。
焼き揚げの基本
茎が炭化するまで焼く
基本的な部分や切ってから放置しておいても良い部分は湯揚げの基本と同じです。
湯揚げと違う部分は焼き上げは花屋さんなどでも1~3本程度を保護紙に巻いて行うことが多いので沢山の花を一度に水揚げするには不向きです。
焼く際のポイントは火に対して茎を寝かせて焼くことです。
火に対して垂直に持って焼くと手も熱いですし花に直接上昇した熱気が当たるので花が傷みやすくなります。
茎が炭化しているので炭の効果で水の腐敗を防ぐと言われていますが個人的には水替えを怠らなければそこまで防腐効果も無いように思います。
炭化している部分は衣服や床などに付着すると黒くなるので注意が必要です。
叩く
作業の流れ
叩いてからすぐ水に浸ける
叩くは水折りに適した花材をまとめて水揚げしたい場合などに使います。
トンカチで叩くので音も大きく焼き揚げ同様にご家庭で行うのはおすすめしません。
必要な道具
・トンカチ(素材は木・鉄・樹脂など…どれでも構いません)
・傷ついても良い床、もしくは段ボールや木の板など床を保護して叩いても大丈夫なものを用意する。
①茎の最下部を傷ついても良い床もしくは台紙などに乗せる。
①茎の最下部2~3㎝ほどをトンカチで叩いてすぐに水に浸ける。
叩くの基本
茎が割れて弾ける程度叩く
粉々になるまでとは言いませんが割れて弾ける程度には叩いたほうが水が良く揚がります。
叩いて割れた破片が飛んでくることも有るので注意が必要です。
解説図では一本だけ叩いていますが、複数本をまとめて叩く際は保護紙を巻いておいた方が叩く際の衝撃で花や葉同士が擦れて傷むのを防いでくれます(一本づつ保護紙を巻くのではなく例えば10本をひとまとめにしてから紙を巻くなど)
水揚げ作業が終わったらどのぐらい水に浸けて置く?
1時間から半日程度
ずいぶん時間に幅があると思われた方もいらっしゃると思います。
適正時間の変動は花の状態によるものです。
ほぼ水が下がっていない元気な状態の花 | 30分~1時間半 |
少し葉に元気がない。 | 2時間~3時間 |
葉も花も少しぐったりしている。 | 半日 |
完全に水が下がって元気がない | 一晩(生き返らない可能性も) |
花の種類にもよりますが花屋さんから花を買って帰ってきた際は花の見た目が元気そうな様子であれば水揚げ作業をしてから3時間程度水に浸けておけば間違いないです。
花瓶などの水取り替えの際は花が元気そうであれば切り戻しをしながら生けてしまえば待ち時間を省くこともできます。
すぐに水に浸けたら一度も水から上げない
※水揚げ作業時の最大の注意点です。
切り戻しの解説で切り口が空気に触れないようにすぐに水に浸けますと解説しました。
切り口が空気に触れてしまうとせっかく水揚げ作業をしても水を揚げる力が半減してしまうので、すべての水揚げ作業ですぐに水に浸けたあともしくは水中で茎を切った(折った)あとは絶対に一度も水から上げずに浸け置きしてください。
おすすめの水揚げ法
この中で私が一番おすすめしたい水揚げ方法は湯揚げです。
花屋さんから花を買って帰ってきたら紙をしっかりと巻きなおして、ポットのお湯もしくはケトルなどで沸かしたお湯を茎が2~3㎝浸かる程度の耐熱容器に入れて湯揚げをしてから水に浸けておけば1~2時間で水が揚がっていつでも花を生けられる状態になります。
少し覚える手順は増えますが水を揚げる力は強く手間と時間を省けるので覚えてしまえば実は手軽な水揚げ方法です。
まとめ
切り花の水揚げをしっかりと行えば花は長持ちし、より活き活きと美しい姿を見せてくれますので是非挑戦してみてください。
花の仕事を志す方は一通り手順だけ覚えておいて実践は勤め先の花屋さんやお花の教室などで教えてもらうというのも手です。
花材ごとにどの水揚げが適しているかという項目が検索できるように水揚げ花材辞典も制作予定ですのでまた見に来ていただければと思います。